Column
コラム
近畿大学副学長 岩前篤 教授 スペシャルトークセッション<後編>
2025.02.18(火)

前編・後編でお届けする、
岩前教授×ラッフルズホームのスペシャルトークセッション。
前編では、近畿大学副学長、岩前篤先生による
「健康が四国を変える」をテーマの講演をご紹介しました。
後編では、ラッフルズホーム代表の金原建雄と
岩前教授によるトークセッションの様子をお届けします。
トークセッションのテーマは
「健康」と「四国の未来をどうデザインしていくのか」
住宅業界の現状や四国の未来に向けた
地域創生のビジョンについて、
大学で教鞭をとられている岩前先生にお話しを聞きました。
トークセッション スペシャルゲスト

岩前 篤 教授
近畿大学副学長 建築学部教授
建築学部 建築学科 総合理工学研究科所属
建築物における健康で快適で
エネルギー性能に優れた住宅を研究。
日本・アジア気候特性と暮らし方に基づく計画手法、
ゼロエネ技術、
健康維持増進技術を対象とした研究をしている。
トークセッション ラッフルズホーム代表

金原 建雄
標準仕様で高性能な住宅を提供する
お客様が健康になるために住宅をどう改善していくか。
健康ソリューションと住宅技術の関係は、
ありそうで意外と意識されていないように思います。
その点について、どのように啓発されているのか
お聞かせいただけますか?
岩前先生
新しいことに取り組むには勉強が必要です。
知識を得て、それを応用する知恵を身につける
トレーニングが大切です。
ただ、一度話を聞いたからといって、
すぐに健康住宅を売りにできるわけではありません。
やはり、計画的なトレーニングが必要です。
また、健康住宅の技術は一部の高コスト商品だけではなく、
少しの工夫でも実現可能です。
例えば一部屋だけ健康的な環境を整えるなど、
小さな取り組みでも効果があります。
新築が減っても、健康な住環境の提供は十分可能です。
金原社長
我々は断熱や気密性能に力を入れています。
ただし、コストが高騰し過ぎるとお客様が減ってしまうため、
標準仕様の中で高品質な性能を提供しています。
また、住宅における自然素材の活用にも注力しており、
木材を使用した床材などで居心地の良さを追求しています。
高性能な住宅でも、住まう人が「心地よさ」を
感じられなければ意味がありません。
また、空き家問題も大きな課題です。
空き家になる住宅を作らないために、
間取りやデザイン、将来の維持管理を重視しています。
住宅は「何を建てるか」ではなく
「何を遺すか」を考えて作っています。

資産価値を未来へ紡ぐ、新しい住まいの形
日本の住宅は資産としての価値が低く評価され、
木造だと減価償却が22年でゼロになるという制度があります。
これにより、銀行もその期間で
資産価値をゼロと見なしてしまうのが現状です。
しかし、性能が高く、
適切にメンテナンスされている住宅であれば、
資産価値を保てるはずです。
そうした取り組みを行っている
自治体もあると聞いていますが、
そのあたりについて詳しく教えていただけますか?
岩前先生
例えば鳥取や北九州では独自の基準を作り、
施策を推進している自治体があります。
日本の行政はこれまで横並びで
国の方針に従うことが基本でしたが、
最近は地域独自の取り組みを行う自治体が増えています。
明石市は子育て支援に注力した結果、人口が増加しました。
批判もありますが、
人口が集まる施策を行うのは重要なことです。
また、守口市では全ての小学校の校庭を芝生化し、
子育て世帯が移住するきっかけを作り、
人口増加につなげています。
空き家対策においても、ただ個別に改修するだけでなく、
新しい街づくりを進めていく必要があります。
例えば、コペンハーゲンでは港湾地区を再開発し、
「5ミニッツ・シティ」という、
どの家からも5分以内に公園や病院、商業施設、職場に
アクセスできる街づくりを行い、大成功を収めています。
日本でも、こうしたモデルを参考に
新しい価値を作り出すことが重要です。

日本の人口が7000万人になっても
幸せに暮らせるビジョン
さて、ここからは地域創生や
「四国の未来をデザインする」というテーマに
話を移したいと思います。
現状を見ると、数字の上では人口減少という
大きな課題があります。
日本の人口が7000万人になっても
幸せに暮らせるビジョンを
提唱するべきだとおっしゃっていました。
その考えをぜひお聞かせください。
岩前先生
はい。
イギリスやフランス、ドイツの人口は
7000万〜8000万人程度ですが、
それで国を維持しています。
日本も同じようにできないわけはありません。
1億3000万人という数字を基準に考えると
ネガティブになりますが、
北欧の国々のように数百万人規模の国もあります。
それぞれの国に合った規模で成り立っているわけです。
日本でも都市単位で見れば、
数十万人規模で維持している都市はあります。
そうしたモデルを各地域で作っていけばよいのです。
労働力不足を理由に外国人労働者を増やすか
どうか議論されていますが、
本当に必要な範囲内で進めればよい話です。
また、AIの進化を悲観的に見る人もいますが、
AIが仕事を代わりにこなしてくれれば、
それをポジティブに活用すれば良いのです。
仕事の在り方を柔軟に見直していくことが重要です。
四国の入口
徳島の美しい景観と文化を活かして
「四国の未来をデザインする」というテーマで
「東洋のドブロヴニク」という話をされていましたね。
ドブロヴニクはクロアチアの地中海沿岸にある美しい街で、
「魔女の宅急便」や「紅の豚」のモデルにもなった場所です。
その背景にはどのような思いがあるのでしょうか?
金原社長
はい。
「東洋のドブロヴニク」といったのは、
徳島が美しい景観と文化を活かして
観光地として発展できる可能性があると
思っているからです。
ドブロヴニクは決して大都市ではありませんが、
歴史ある建築や美しい景観が
観光資源となり、多くの人を惹きつけています。
徳島でも同じように、
田園風景や古い町並みを守りながら、
その魅力を発信していくことが重要です。
ただ便利さを追求するだけではなく、
「懐かしさ」や「自然の豊かさ」を
感じられる場所を作ることで、
人が集まる場所になると考えています。
また、学校の廃校問題も深刻です。
耐震性の問題から解体される場合も多いですが、
校舎を地域の公民館として活用するなど、
再利用の方法を模索しています。
そうした建物を残すことで、
昭和の風景を映画の撮影地として活用するなど、
新しい価値を生むこともできるはずです。
新しい町づくりにおいても、
無秩序に家が建つのではなく、
一定のルールを設けることで
町全体の価値を高めることができます。
土地の売買ではなく、定期借地権を活用して土地を貸し出し、
その上に家を建てる方法もあります。
今年、徳島県に「定期借地権協会」を設立し、
町の再生に向けた取り組みを始めています。
トークセッションを通じて、
「四国の未来をデザインする」という道筋が
示せたのではないかと思います。
そして、我々の業界が生活を支える
重要な存在であることも再確認できました。
性能と価格のトレードオフは避けられませんが、
技術を磨き、より良い商品やソリューションの開発に
向けて努力を続けてまいります。
特に「健康」を軸に据え、業界全体でその価値を伝え、
共有していきたいと感じるセッションでした。